B:呪われし愚者 緑葉のハドージャ
マムークには、いくつもの訓話が伝わっているが、特に「森を穢した者が呪いを受ける」というものが多いらしい。
大切な樹海を護るため、受け継がれた知恵なんだろう。そんな文化の影響なのか、とある草木の魔物が「緑葉のハドージャ」と呼ばれている。森に付け火をした愚者が、呪いで魔物になった姿だというんだ。まあ、眉唾ものの話ではあるが、実際に風を操り、人里に害をなす魔物であることは確かでね。見かけたら、逃さず仕留めとくれ。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
こんなにギャラリーの多い戦闘も珍しい。里から近いこともあってマムージャたちは騒ぎを聞きつけ、あたし達と緑葉のハドージャを遠巻きに囲んで戦いの行方を見守っている。一部、どっちが勝つか賭けている連中もいるが、まぁ、それは見なかったことにしておく。
だが、折角ギャラリーが集まったと言うのに、勝負はそれほど長くはかからなかった。全身を葉っぱに覆われたまん丸い魔物は相方の剣の前に四つん這いになっていた。
「ご苦労、ご苦労」
ベンチから指示する監督さながら観戦モードで戦いの殆どを相方に丸投げしていたあたしは声を掛けながら相方に近づいた。
「次の戦いはあたしが観戦するからね」
相方はあたしの方を見て溜息をつきながら苦笑いして言った。あたしは笑いながら相方の脇を通り過ぎると、胸元から淡く光る液体の入った瓶をだすと地面にひれ伏す葉っぱの化け物に振りかけた。
すると液体のかかった魔物の体を覆う葉っぱが光りながらハラハラと一枚一枚剥がれ、風に舞う羽のように上空に昇ると光の砂のようにさらさらと霧散した。取り囲んでいる野次馬のマムージャたちがざわつく声が聞こえる。葉っぱは次々と剥がれては霧散していき、葉っぱの中から跪いた一人のマムージャが姿を現した。
「ハドージャだ!」
ギャラリーの誰かが言うのが聞こえる。
ハドージャは驚いたように自分の手や体をキョロキョロ確認しながら言った。
「こ…、これは…」
「許されたのよ、あなたは」
相方が声を掛ける。
「そもそも奇襲を仕掛けて原因を作った事には違いないけど火を放ったのはシュラバール族の尖兵でしょ?ハドージャ。それにあなたが奇襲しなくてもシュラバールは村を襲って火を放っていただろうしね」
あたしはハドージャにそう伝えた。
「君たちが森の精霊に…?」
あたしはちょっと得意気にハドージャを見下ろして言った。
「苦労したわよ~。森の奥っていったってただ行けばいいってもんじゃないんだから」
相方があたしを見て苦笑しながら跡を継いだ。
「まぁ、あたし達は妖精や精霊の類には何故かモテるのよね」
体を覆う葉っぱが全て霧散すると、今度はハドージャの体が淡く光り始め、風に飛ぶ灰のようにハラハラと崩れて言った。
「残念なのは、あなたが呪いを受けてからもう数百年たってしまっている事。あなたの体は時間の流れには耐えられない…」
あたしはハドージャにそう伝えた。ハドージャは笑みを浮かべながら頭を振った。
「いや、私はマムージャ族であることに誇りを持っている。マムージャの姿に戻って最後を迎えられるなんて、これほど嬉しいことはない。」
そういうとあたしと相方の顔を交互に見た。
「本当にありがとう。この恩は決して忘れない」
あたしは微笑んで言った。
「あなたは星の海に還って、そこで記憶は洗浄され生まれ変わるのよ。出来ない約束はしないの」
ハドージャの体はもう半分光の砂になり霧散していたがハドージャが涙を流しているのははっきりとわかった。ハドージャは最後にもう一度「ありがとう」と言うと、最後の塊がふわっと風に散った。
遠巻きに囲む野次馬の中からあたし達にハドージャの伝説を教えてくれたマムージャ族のガイドが歩み寄ってくる。
「本当に、森の奥に精霊はいたんだな」
ガイドはまだ信じられないといった面持ちで言った。
「いたわよ~。性格のネジくれた厄介な精霊様が」
あたしは肩を竦めて笑った。
「今までは信じる者も少なかった森の訓話だったが、まさか結末が加筆されることになるとはね。ハドージャは里で手厚く祀られるだろう。これからは君らのことも語り継がれるんだな」
「海の向こうから来た美人カップルってでしょ?」
あたしが茶化すとガイドは呆れたような顔を見せて笑った。